あわれなヒナは声もかれんばかりに泣きながら、けつまずいたりころんだりして私のあとを追って走ってくる。だがそのすばやさはおどろくほどであり、その決意たるやみまごうべくもない。彼女は私に、白いガチョウではなくてこの私に、自分の母親であってくれと懇願しているのだ。それは石さえ動かしたであろうほど感動的な光景であった。ため息をつきながら私は、この十字架を肩ににない、家へ連れて帰った。ヒナはその当時たった百グラムの重さしかなかった。けれどもそれがどれほど重い十字架であるか、どれほど高価な努力とどれほど多くの時間とを費やさねば負えぬ十字架であるか、私にはもうはっきりとわかっていた。
コンラート・ローレンツ
『ソロモンの指輪』-動物行動学入門-


